アマサケアユミ [ 甘酒歩み ] in 東京

東京甘味処漫遊記~都内大小新旧様々な甘味処を徘徊して甘酒をハシゴ酒する人の日記~

甘酒歩み

甘味処 西山 【浅草@東京メトロ銀座線 都営地下鉄浅草線】

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 2番出口の前で店頭の箱型のせいろが四方から湯気を吹き出している。まるで山間の温泉場にある温泉饅頭屋の様だがココは浅草雷門。行き交う人々に褞袍を羽織った様な湯上り客などいるハズも無く、日本中はおろか世界各国からの観光客が、未だ肌寒い歩道に溢れ犇めき合っている。そんな異国の人々をも思わず立ち止まらせる、優しい香りを漂わせるせいろの横をすり抜けて一杯「甘酒」を頂こうと、「甘味処 西山」の店内へカラカラと格子戸を開ける。

 店員さんに促され入り口近くの二人掛けの卓に座り、先ずはペラペラとメニューを開いてみる。迅速に“お飲物”の項目に「甘酒」を確認して、お冷やと紙おてふきを持ってやって来た店員さんに「甘酒」をお願いする。店員さんが厨房へ入って行った後は琴の音色を聴きながらジッと「甘酒」が来るのを待つ。

 店内を見渡すと黒く重厚な卓と椅子が整然と並んだ店内は、御影石の様な床と土蔵の様な白壁の上には梁がむき出しの天井。その中央部分に微動だにしないスクリューの様な、無骨なシーリングファンがぶら下がっている。壁際に設えたカウンター席と続きの様に、格子がはまった仕切り窓の前にもカウンターがある。そんな甘味処と云うよりは小料理屋といった趣がある店内で、天井のシーリングファンを睨み付け動け動けと念力を送っていると、御盆に乗せた「甘酒」を持って店員さんが現れる。

 目の前に置かれた円い湯呑み茶碗の中には、見た感じ固体部分と液体部分が馴染み切っていない様子が明確に窺える。琥珀色をした液体で縁取られた空間に閉じ込められた白い入道雲の中を、グライダーが滑空している様にスイスイと移動を繰り返している米粒達。まさか煮詰まっている訳じゃなかろうなと恐る恐るズズッと一口含むと、麦芽糖を思わせる素朴で円く穏やかな甘さが、粘り気の無いサラサラとした口当たりの湯に送られて、やんわりと口内の隅から隅まで染み渡る。そのまろやかで甘い液体の中でシコシコした舌触りと、ツブツブした食感が主張を繰り返しそこに潜んだ糀の香りが鼻腔を満たす。

 これで小豆を浮かべて葛やらショウガを効かせれば図らずも日本の伝統的甘味飲料がいっぺんに味わえるなと、善哉が飲み物かどうかという論議はさておき、まるで“飴湯”の中に糀を溶かし入れた様な奥ゆかしい甘さに満ちた「甘酒」を静かに啜りながら思う。そしてその間もシーリングファンが動く事はない。


[住所]東京都台東区雷門2-19-10
[時間]10:00~19:00
    (ラストオーダーは18:45)
[定休]水曜日
[価格]440円