アマサケアユミ [ 甘酒歩み ] in 東京

東京甘味処漫遊記~都内大小新旧様々な甘味処を徘徊して甘酒をハシゴ酒する人の日記~

甘酒歩み

豆腐の双葉 【人形町@東京メトロ半蔵門線 都営地下鉄浅草線】

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 甘酒横丁交差点から浜町方面へ向かうと直ぐにある「豆腐の双葉」は、その名の通り創業明治40年を誇る老舗豆腐屋さんである。

 その“豆腐”や“油揚げ”や“がんもどき”に混じって、“豆乳ドーナツ”や“豆乳ソフトクリーム”そして「甘酒」が売られている。店の片隅に特設された一画で売られるその「甘酒」は、その昔に甘酒横丁で「甘酒」を販売していた今は無き店から受け継いだモノだそうで、いわばココ甘酒横丁の伝統と魂を継承したといった所。

 そんな重責を担う老舗「豆腐の双葉」の店先では、サラウンドで響く子供の絶叫とソレを越えて響き渡る女性の大音声が、甘酒横丁の歩道にまで達して聞こえる。道行く客も振り返るその迫力に気圧されながらも店内を窺うと、中ではおんぶ紐で赤ん坊を背負ったひっつめ頭のキビキビ働くおかあちゃんと、その傍をチョロチョロと動き回る二人の子供のはしゃぎ声という、オッサンの記憶に焼き付いている昭和の家庭が息衝いていた。

 その懐かしい空間へ一歩踏み入って「甘酒」を注文すると、おかあちゃんは銀色のスープジャーの蓋をパカンと開けて、湯気が漂う中から柄杓で「甘酒」を掬って紙コップへ注いでいく。受け取った紙コップの中でユラユラと揺れる、花霞を集め煮詰めた様な「甘酒」を歩道の植え込み前に並べられて縁台に向かい、店の中から豆乳ソフトクリームを手にやって来た、瑠璃色の着物を羽織った豆腐屋の童と並んでズズズと啜る。

 サラリとした口当たりの液体はほんのり優しい甘さを湛え口の中に流れ込み、その合間を糀の香りが漂い舌にはコロコロとした粒が縦横無尽に駆け回る。ふんわりと円やかな香りが十分に染み渡った所で仄かに漂っていた甘さは、やがて幾重にも折り重なり口内を覆い尽くして辺り一面に貼り付いていく。その甘さと共に塗り込められた糀の香りも一緒になって風味を増し鼻腔を駆け抜け、喉の奥で貼り付いていた甘さの痕跡を引き連れて何処ぞへと霧散して果てる。その様はこれぞまさしく安心・安定そして王道の「甘酒」であり、甘酒横丁というコミュニティを構築しているアイデンティティである。

 そんな「甘酒」なので紙コップ一杯程度は瞬く間に終わりを遂げる。未練がましく紙コップの底を眺めていると、店の奥から空の紙コップを回収する旨をおかあちゃんが告げて来たので、その差し出された手に紙コップを渡しながら一言付け加える。

 すいません、もう一杯ください。


[住所]東京都中央区日本橋人形町2-4-9
    人形町双葉ビル
[時間]7:00~20:00
[定休]無
[価格]200円