アマサケアユミ [ 甘酒歩み ] in 東京

東京甘味処漫遊記~都内大小新旧様々な甘味処を徘徊して甘酒をハシゴ酒する人の日記~

甘酒歩み

喫茶 みよし【京王多摩川@京王相模原線】

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 京王多摩川駅の北口改札から出て右側の、まさに広いだけの何も無いタイル敷きの広場の先には既に、「喫茶 みよし」の赤い軒と幟と吊り下げ旗が勢いよくはためいているのが見える。その内のひとつが“味自慢 甘酒”なのを何度も目で追いながら静かにガラスの引戸をカラカラ開けて店の中へ入っていく。

 店内にあるテーブルでおばちゃんが毛糸を編んでいる所を恐縮しながら甘酒の有無を確認。直ぐに出来ますよとの事で早速お願いして入り口近くのテーブルに陣取り丸椅子に腰掛けると、緑茶を出した後に蓋付きの茶碗を抱え店の奥の扉へ入っていった。僅かに開いた扉の隙間からはカチャカチャ調理をする音が漏れ聞こえて来る。焚かれたストーブの吐き出す温風の音だけが聞こえる至って静かな店内で客は自分ひとり。「甘酒」の到着を待つその間は目の前の緑茶を啜りながらひたすら静かにボンヤリ店内を眺めながら待つのみである。調理場の器具には布巾が掛けられた様や、仕切りの上に掛けられたちょっと長めの暖簾や、その前に吊るされた無数の金魚の小物、そしてカウンターに置かれた編み掛けの毛糸が醸し出す “おばあちゃん感”が何とも言えぬ雰囲気を醸し出す。

 そんな“おばあちゃん感”と対面する壁には、新聞や各種冊子やタウン誌といった記事の切り抜きが貼られ、その中でおばちゃんがニッコリ笑って“たい焼き”を焼いている。流石は“たい焼き”の老舗であり、その評判は枚挙に遑がない程である。などと感心していたら奥の扉が開きおばちゃんが先程の茶碗をお盆に乗せて登場。ヒョイと銀のスプーンを茶碗に入れてコチラへ差し出し、時候の話題を二言三言交わすとおばちゃんは再び席に椅子に腰掛け編み物を始める。

 スプーンと蓋の隙間からは甘い香りが立ち昇り、開けると中には透明度とは無縁の乳白色で満たされた中で舞い踊る細かな白い粒。一口含めばトロリとした口当たりで流れ込んできてパキッとした甘さとショウガの風味と皮を焼く熱をもたらす。その中には粒状のモノは無くポタージュの様に只々トロトロと舌に流れてくる。そしてようやく熱が冷めて液体どもが喉を過ぎる頃に口の中を酒粕の芳香が漂っている事に気づく。子供の頃に慣れ親しんだ懐かしい風味に、一人静かに感傷に浸りながらチビチビと飲み進める。そんな庶民の「甘酒」を見事に造り出すおばちゃんは、客の郷愁を増幅する様に背中を丸めて静かに編み物をしている。


[住所]東京都調布市多摩川5-6-4
[時間]11:00頃~18:00頃(なくなり次第終了)
[定休]不定休
[価格]300円