アマサケアユミ [ 甘酒歩み ] in 東京

東京甘味処漫遊記~都内大小新旧様々な甘味処を徘徊して甘酒をハシゴ酒する人の日記~

甘酒歩み

美術茶房 篠 【湯島@東京メトロ千代田線】

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 湯島の3番出口を右に折れて進んだ二つ目の曲がり角を行くと次第に道は細くなり、湯島天満宮へと至る階段である“男坂”が奥に見えて来る頃、右手に現れる深緑のテント地の庇を伸ばした店がある。暖簾の掛かったガラスの引戸へと導く様に置かれた植木鉢には、危うく蹴っ飛ばしてしまいそうな所に“只今営業中”の札が立て掛けてあり、その両脇には大小様々な羊の置物が数多置かれていて憩いを求める客を出迎えてくれる。

 入り口脇に掲げた「美術茶房 篠」の表札を抜け店内に入ると、民芸品やお土産品で溢れかえる賑やかな光景が広がる。その更に奥に並ぶ美術品が収められたショーケースの先で、椅子に座って微笑みながらコチラを見つめるおじさんの姿。急ぎ一歩踏み入り休憩客である事をアピールするとおじさんは無言で着席を促し、適当に着席した客が荷を下ろし一息ついた時を見計らう様に静かにお冷やを置く。早速注文をお願いするとおじさんは一言小さく「甘酒」とつぶやいて店の奥へと向かう。休日の昼前の甘味喫茶には至って静かで、店内に流れるピアノのBGMとテレビの音が微かに聞こえて来るのみで客も自分のみ。壁に飾られた絵やショーケースに入った彫像などの隙間を埋める様に飾られる、民芸品や工芸品を眺めてながら待つ事数分後、お盆を手におじさんが静かに現れる。

 目の前に置かれたお盆にはお茶と銀の匙と白く細身の湯呑みに注がれた「甘酒」。それはクリームの様な白さに少しの透明感を湛えており、中では水晶の様な細かい粒が幾つもユラユラと対流を繰り返す。湯呑みを手に取りフーッと表面を吹き冷ますと、フルフルと震えながら一つ小さな笑窪を作り出す。ズズッと啜った一口目はドロリとした飲み口で円やかな甘さとショウガの風味が広がった後、とろみが孕んだ熱が消え去ると酒粕の優しい香りが広がる。湯呑みの中ではトラックレースを繰り返していた粒達は、口内に入ると一斉に遥かゴールを目指しロードレースを始めて次々に舌の上を通過していく。それと同時に先程まで大人しかった甘さが本来の力を発揮しだし、口内にグルリと甘く強固な膜を張り巡らせる。その膜を打ち破る為に更に一口「甘酒」を含むと、口内は再び円やかな甘さとショウガの風味で満たされる。

 そんな事を幾度も繰り返しながら一人ボンヤリと店内を眺める。店内で自然に共存している美術品と民芸品の姿からその境界は一体何処にあるのかを考えながら。


[住所]東京都文京区湯島3-32-3
[時間]10:00~18:00
[定休]月曜日
[価格]400円