アマサケアユミ [ 甘酒歩み ] in 東京

東京甘味処漫遊記~都内大小新旧様々な甘味処を徘徊して甘酒をハシゴ酒する人の日記~

甘酒歩み

京菓子司 彦九郎 【人形町@東京メトロ半蔵門線 都営地下鉄浅草線】

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 三度やって来た日本橋人形町は甘酒横丁。前に訪れた「森乃園」や「豆腐の双葉」と共に築く“甘酒三角地帯”最後の頂点にして、人形町にあるもう一つの「彦九郎」こと「京菓子司 彦九郎」は、たい焼きの老舗「柳屋」と軒を連ね営業している。

 枯れた藍色の暖簾を提げた古びた佇まいの小さな間口に、緋毛氈を敷かれた四つの小さな台が客を導く様に置かれたその間口の奥、薄暗く陰った店内一杯に置かれたガラスの陳列棚の向こうで、おばさんが独り棚の上からチョコンと顔だけ見せて微笑んでいる。早速店内へ赴きおばさんに「甘酒」を注文すると笑顔のおばさん曰く、

冷やし甘酒ですけどいいですか?

との事でふと振り返る緋毛氈の台にある立札にはシッカリと「冷やしあま酒」の文字が記されている。確かに暖かくなってきて今も額にじんわりと汗を浮かべているものの、まだ四月も半ば程。当然供されるのは熱々の「甘酒」なのだろうと高を括っていたら、季節を先取りした「冷やしあま酒」がお目見えである。

さすが和菓子屋は“季”が早い。

はいお願いしますと告げるや否や、おばさんは店の奥へ引っ込んで商品の準備を始めた数分後、茶卓に乗ったガラスの湯呑みに注がれた「甘酒」がやって来た。代金を支払った後ソレを受け取り店の前に置かれた、これまた緋毛氈が敷かれカタカタと若干納まりの悪い縁台に腰掛け、ガラスから伝わるヒンヤリとした感触を確かめながらチビリと一口含む。

 シンと冷えた液体は滑らかな口当たりでトロリと流れ込むと、その冷気の内からゆっくりとそして静かに湧き出すように口内の隅々まで、まろやかな甘さとふんわり漂う糀の香りを広げ始める。ほんの少しの粘り気はタプンとした口当たりで舌の上で弾み、ソコに乗っかった米粒はモロモロと容易く崩壊を始めソコから糀の風味を僅かに破裂させて、サラサラと流れ再び「甘酒」へと回帰していく。米糀だけで醸し出した純度100%の自然な甘さは、熱で煽られる事無く穏やかなまま口内を楚々と通り過ぎて、喉に貼り付く様な尖った甘さなどは微塵も残さず、ほんのり糀の香りだけを置き土産に朝靄の様に消える。意外に「冷やしあま酒」というモノは、温かい「甘酒」よりも甘さと香りがより明瞭に感じられる代物なのだなと感心しながら、立札に書かれた説明書きをつらつらと読む。ソコに記された「甘酒」の素性を知るにつれ、情け有馬の水天宮の近所で「甘酒」の文化が花開いた事の必然を知る。


[住所]東京都中央区日本橋人形町2-11-3
[時間]10:00~21:00
[定休]不定休
[価格]150円