アマサケアユミ [ 甘酒歩み ] in 東京

東京甘味処漫遊記~都内大小新旧様々な甘味処を徘徊して甘酒をハシゴ酒する人の日記~

甘酒歩み

新鶯亭 【上野@山手線 他11路線】

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 JR上野駅入谷改札からパンダ橋口へ出てジャイアント過ぎるジャイアントパンダ像を過ぎて橋を渡り、東京文化会館前経由で辿り着く上野恩賜公園口。先ずは上野動物園の表門を目指し遊歩道を進めば、人混みの年齢層は壮年から中年、そして青年から徐々に低下し始めやがて幼年を迎える。となると周囲は歓声と奇声が入り混る嬌声に囲まれ、そこに昂揚感に煽られ抑えが利かない子供等が駆け回る中を注意深く避け、辿り着いた上野動物公園表門を今度は左へ行けば、灌木が鬱蒼と茂る小高い場所に佇む「新鶯亭」に到着する。

 玄関口へ至る短い坂の入り口には“鶯団子”と記された看板と掲示板の様な品書きが置かれ、ソコから窺える深緑を従えた古風な平屋造りの店舗は、大正4年創業の老舗の威厳をそこはかとなく漂わせコチラを見下ろしている。その威厳に挑むように坂を上り樺色の暖簾を潜るリ店内へ入ると、茶屋風の至って簡素な造りの設え。ご自由にという店員さんの指示に従い奥の卓に腰を降ろし、すぐに店員さんが緑茶を持ってきた所で早速温かい方の「甘酒」を注文する。緑茶を啜り一息ついて振り返る背後の庭先には野掛けの席があり、光景だけなら静けさが漂うが何せ横は上野動物公園、おまけに目の前には子ども遊園地まであって今も子供達が発する怪鳥音にも似た絶叫が、若干店舗を囲む樹木に濾過され薄まりつつもシッカリ店内に届いて来る。そんな過剰な活気に浸食されながら待つ事数分で「甘酒」が到着し、引き換えで代金を店員さんに支払ってから目の前に置かれた湯飲みを手に取る。

 鼻面に甘い香りがふんわり立ち昇るのを掻き分けてズズズと一口啜ると、まろやかだが少しクセのある甘さが広がる。トロリとした口当たりの中に密集した無数の米粒のツブツブが、明確な感触を発揮しつつ口内で大移動を繰り返し、その折に優しい香りとキレの良い甘さを塗り重ねて行く。加えて徐々に力を増していく糀の香りで一杯に満たされ始める頃に、喉奥で重なる甘さは最高潮を迎えた後に段々と薄れやがて霧散する。その折に初めに感じた甘さに潜んでいたクセを残していく。次々と舌に乗っかる糀の粒を潰し薄く伸してやると、そのクセのある甘さが強まりその輪郭がハッキリと見えて始める。が、とはいっても何が何やら正体は掴めぬまま、野菜的でもありサトウキビ的でもあり、ほのかに青味がただよう果実っぽくは無い自然派の風味に終始翻弄され続けるのである。


[住所]東京都台東区上野公園9-86
[時間]10:00~17:00
[定休]月曜日
[価格]500円

芝縁 【芝公園@都営地下鉄三田線】

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 芝公園駅のA4出口から日比谷通りを神谷町方面へ歩いて行けば、直ぐに増上寺の中門であり国の重要文化財でもある三解脱門にたどり着く。ソコを抜けて境内へ入ると写生をする人々のイーゼルが小さな送電鉄塔の様に建ち並んでいる。その間を通りぬけ進んだ先には木陰と緑葉に埋もれた平屋の建物が見えて来る。その何処か厳かな雰囲気を醸し出しているお休み処コソが「芝縁」である。

 白いガーデンテーブルと緋毛氈の縁台が並ぶ店先から窺える店内は薄暗く今は一人の客もいない。中に入ると格子の天井と中央がポッカリと空いたレイアウトでダンスパーティでも催せそうで、その中央部奥でおばさんがりでバレエの3番ポジションの姿で佇んでいた。まずは隅の窓際席に腰を降ろして「甘酒」を注文しようと品書きを見ると、黄色い紙で“ぜんざい”類と共に覆い隠されている「甘酒」の文字。丁度注文を聞きに来たおばさんにその旨を確認をすると、問題なく用意できるとの事で一安心の勢い乗って注文をお願いする。しばらくして厨房からシュウシュウと煮沸音が聞きこえて来はじめ、ソレを聞きながら窓の外の深緑をぼんやり眺める。まさに都会の喧騒とバッサリ切り離された異空間で鬱蒼と茂る木々に隠れたこの場所に訪れる人の姿は無く、やがて待つ事数分におばさんが盆に乗せられた湯呑みを持って来る。

 湯呑みからふわりと甘さを立ち昇らせながら、白く細かに泡立った「甘酒」は朧の様に揺らめいている。早速手に取り一口ズズズと啜ってみると一切粘り気が無く、サラサラとしたまさに白湯の様な口当たりで口に流れ込む。そのサラサラの中にある細かいツブツブの感触が見え隠れして舌の表面を撫で、そこからほんのりと優しい甘さとソレを上回る仄かな糀の香りを口内に漂わせる。正統派糀式「甘酒」ではあるがこの粘り気の無さは溶媒の性質もあるが、混入された糀粒の細かさも大きな要因ではなかろうか。そんな事を推察しながら、更に口に含んで香りと甘さを満たしながら小さな粒を舌先ですり潰しているうちに、喉の奥には折り重なった甘味が厚みを増しシッカリと貼り付く。しかしソレもほんの束の間の事。したたか潰し終えた粒は放つ糀の香りは徐々に濃度を増していき、やがて喉奥に残る甘味は溶かされて霧散し消え始める。その感覚をシッカリと確認しながら手持ってユラユラと廻す湯呑みの中では、乳白色の舞台上で白い粒達がクルクルと踊り続けている。


[住所]東京都港区芝公園4-7-35 増上寺内境内
[時間]10:00~16:00
[定休]火曜日
[価格]400円

山長 【亀戸@総武本線】

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 亀戸駅の北口から明治通りに沿って、亀戸十三間通商店街のアーケードを亀戸天神へ向かってしばらく歩いて行くと、蔵前橋通りと交わる亀戸四丁目交差点に辿り着く。その交差点を渡って左に折れて、亀戸天神へ向かう矢先に香取神社の参道に架かる鳥居と、その鳥居を差し置いて前に出て構える亀戸香取勝運商店街のゲートが建っていてソコの角地で「山長」は営業をしている。

 神霊が鎮まる神域の威厳を損なわない配慮を感じる外観の店先では“焼だんご”を始めとした和菓子類と “赤飯”“おにぎり”といった軽食も売られ、道行く人々が次々に吸い寄せられるように買い求めて行く。一方で店内は甘味処となっていて、コチラも“あんみつ”に代表される和風甘味に加えて、“おぞうに”や“中華そば”といった食事も可。早速店内へ入ると外観とは異なった和風レトロモダンな設えで、二階へ通じる階段の醸し出す雰囲気は、薄暗がりの店内でより一層の趣を魅せる。その階段を駆け登ってみたい衝動に駆られながら、威勢と愛想のすこぶる良いおばさんに「甘酒」の注文をお願いする。次々に焼き上がり、そして次々と売れて行く“焼だんご”の芳ばしい香りに挑発を受けながら待つ事数分。湯呑みにタップリ注がれた「甘酒」が目の前に現れる。

 中でたゆたう液体は亀戸だけに鼈甲色をして、そこに満開のニセアカシアを沈めた様な麹達が踊っている。早速アツアツのソレを一口ズズズと上澄み部分から啜ってみると、飴系の優しくまろやかなサラサラとした飲み口と共に口内へ流れ込んでくる。コレだけだと普通の飴湯であるが、中で揺蕩う白い一団を追加招集してやると、途端にソレは本来の「甘酒」へと姿を変え甘さを追いかける様にふわっと糀の風味を伝えて来て、喉の奥を覆い貼り付く甘さをゆっくり溶きほぐして直ぐに消え失せて行く。そんな事を繰り返し飲み進めて行くと積み重なった甘さと風味はハッキリと輪郭を浮かび上がらせ、舌に残った粒をクニクニと舌と上顎で磨り潰す時、それら一粒一粒の点から濃厚な「甘酒」を醸し出し鼻腔を駆け抜けて行く。というかそもそもちゃんとかき混ぜて飲んだら最初から完成した「甘酒」なのだとハタと気付き、湯呑みをクルクルと回しながら「甘酒」から立ち昇って来る甘い香りを、外光が漏れ射す仄暗い店内で図らずも参道脇で俗世と隔絶し、威勢の良い売り声を聞きつつ、静かで賑やかしい空間に身を浸しチビチビと飲み進める。


[住所]東京都江東区亀戸3-60-21
[時間]甘味処は11:00~19:30
[定休]火曜日
[価格]480円

菊屋 【赤坂見附@東京メトロ銀座線・丸の内線】

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 豊川稲荷東京別院赤坂見附駅B出口から青山通りを青山方面へ進んだ先にある。そのアーバンな街並みに異世界を造り出す鎮守の森へ踏み入り、三所殿前を過ぎ進んだ先にある文化会館は、前に車両搬入口とかあって車の往来も頻繁にあり俗世との汽水域的場所。その1階で営業する茶屋が「菊屋」である。

 店の前には食品関係の他に神棚や神具やお神酒、そして色んな大きさの白いキツネ達といった縁の深い商品に止まらず、ダルマや招き猫といった越境してきた縁起物も売られている。そして店内では「甘酒」を始めとした甘味の他に軽食も取れるという、雑貨店としては度を越した商いを展開する店に圧倒されていると、店の中からおばさんがやってきたので、早速「甘酒」の販売を確認した後におばさんの後に付いて入店。一番奥の席に座り「甘酒」を注文後、先に出された温かい麦茶を啜りながら店内を一望する。店内の片隅にある台所には三人のおばさんが、各々の持ち場を八面六臂で忙しく働いている。長テーブルが幾つも並べられてはいるが、ソレを囲む様におびただしい数の神棚や神具と、数多据え置かれた白いキツネ達が壁際でコチラを見下ろすその光景はもう神具店と言ってよい。そんな厳かな中で待つ事数分でお盆に乗せられた「甘酒」が目の前に置かれる。

 早速青磁色の湯呑みを手に取り漂う糀の香りを吸い込みながらアツアツの液体をズズズと啜る。トロリと口内へ流れ込んだ後にほんの少し粘り気を残す口当たりから、染み渡る様に漂うまろやかな甘さは糀の仕業。その中に漂うフニフニとした感触の粒々は、まさに店の入り口にひっそり貼られていた“美味しいこうじのあま酒”を存分に体現した糀感を満載している。そして熱で増幅された甘さが喉の奥でカッと貼り付きながらもたちまち消散する所も王道の「甘酒」アプローチと共に、甘さの奥に少し酸味を漂わせる所もさすがの仕上がりである。存分に素の「甘酒」を堪能したら次は添えられた粉ショウガを振って掻き混ぜると、仄かに感じられた酸味はすっかり抑えられ、新たに加わっピリッとした刺激に焚きつけられたか、今までほんのりしていた甘さが際立ち始め、たちまち別の「甘酒」の味わいを醸し出す。ビルの谷間に鎮座する社ある雑多な茶屋で供されるにしては実に正統派の逸品との遭遇に正直驚きつつ、頭上の白いキツネ達にはそんな心根もシッカリ見透かされている気になりただ平身低頭で「甘酒」を啜る。


[住所]東京都港区元赤坂1-4-7
[時間]9:30~16:30
[定休]無休
[価格]300円

京菓子司 彦九郎 【人形町@東京メトロ半蔵門線 都営地下鉄浅草線】

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 三度やって来た日本橋人形町は甘酒横丁。前に訪れた「森乃園」や「豆腐の双葉」と共に築く“甘酒三角地帯”最後の頂点にして、人形町にあるもう一つの「彦九郎」こと「京菓子司 彦九郎」は、たい焼きの老舗「柳屋」と軒を連ね営業している。

 枯れた藍色の暖簾を提げた古びた佇まいの小さな間口に、緋毛氈を敷かれた四つの小さな台が客を導く様に置かれたその間口の奥、薄暗く陰った店内一杯に置かれたガラスの陳列棚の向こうで、おばさんが独り棚の上からチョコンと顔だけ見せて微笑んでいる。早速店内へ赴きおばさんに「甘酒」を注文すると笑顔のおばさん曰く、

冷やし甘酒ですけどいいですか?

との事でふと振り返る緋毛氈の台にある立札にはシッカリと「冷やしあま酒」の文字が記されている。確かに暖かくなってきて今も額にじんわりと汗を浮かべているものの、まだ四月も半ば程。当然供されるのは熱々の「甘酒」なのだろうと高を括っていたら、季節を先取りした「冷やしあま酒」がお目見えである。

さすが和菓子屋は“季”が早い。

はいお願いしますと告げるや否や、おばさんは店の奥へ引っ込んで商品の準備を始めた数分後、茶卓に乗ったガラスの湯呑みに注がれた「甘酒」がやって来た。代金を支払った後ソレを受け取り店の前に置かれた、これまた緋毛氈が敷かれカタカタと若干納まりの悪い縁台に腰掛け、ガラスから伝わるヒンヤリとした感触を確かめながらチビリと一口含む。

 シンと冷えた液体は滑らかな口当たりでトロリと流れ込むと、その冷気の内からゆっくりとそして静かに湧き出すように口内の隅々まで、まろやかな甘さとふんわり漂う糀の香りを広げ始める。ほんの少しの粘り気はタプンとした口当たりで舌の上で弾み、ソコに乗っかった米粒はモロモロと容易く崩壊を始めソコから糀の風味を僅かに破裂させて、サラサラと流れ再び「甘酒」へと回帰していく。米糀だけで醸し出した純度100%の自然な甘さは、熱で煽られる事無く穏やかなまま口内を楚々と通り過ぎて、喉に貼り付く様な尖った甘さなどは微塵も残さず、ほんのり糀の香りだけを置き土産に朝靄の様に消える。意外に「冷やしあま酒」というモノは、温かい「甘酒」よりも甘さと香りがより明瞭に感じられる代物なのだなと感心しながら、立札に書かれた説明書きをつらつらと読む。ソコに記された「甘酒」の素性を知るにつれ、情け有馬の水天宮の近所で「甘酒」の文化が花開いた事の必然を知る。


[住所]東京都中央区日本橋人形町2-11-3
[時間]10:00~21:00
[定休]不定休
[価格]150円

梅家 【中野@中央本線】

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 昔はコンサートとテレビ公開放送の街だった中野は、今やマニアと文教の街へと様変わりしてしまったが、北口の中野サンモールは今も昔と変わらない趣のまま、今やマニアの巣窟と化した中野ブロードウェイへ誘っている。その中野サンモール商店街の中腹に柿渋色の木壁に焦げ茶色の文字という、チョッと可読性に難がある看板を掲げた「梅屋」がある。

 全体に落ち着いた色合いの店のその奥は暖簾で隠され良く見えない上に、更にソレを店頭に並んだ2台のガラス製ショーケースと、ショーケース脇にだらりと下げられた商品写真が連なった大判ポスターが妨害をする。そんな“おはぎ”や“いなり寿司”や“赤飯”が出迎える入り口を、ポスターをスルリと避け入店して午前11時過ぎの静かな店内の壁際に腰を降ろす。店員さん持ってきた品書きを受け取って「甘酒 小付」の文字を確認、さっそく店員さんに注文を済ませ一息ついて店内を見渡す。沢山の有名人のサイン色紙や品書きに記された以上に種類を揃えた各種“みつ豆”、それに季節モノの“あんみつ”の商品写真が貼られる木肌色の壁を眺めつつ、ソコに残る壁に掛かった品書きの手書きの書体や、囲炉裏端にある様な火棚が提げられた天井や、その天井の隅に設えたブラウン管テレビ等が醸し出す、昭和が色濃く薫る甘味処の空気グルリと眺め待つ事数分。

 目の前に差し出された木製のフグの上にはデカい蕎麦猪口の様な湯呑みに、なみなみと注がれた飴色に輝く「甘酒」が注がれ、その脇には“小付”としてテトラパックの小袋入りで豆菓子が添えられている。早速静かな店内で密やかにズズズと啜ってみると、サラサラと流れ込む液体はもはや想像通りのまろやかな甘さを湛え、その中で強すぎず弱すぎずの良い塩梅で香る糀の存在が立ってくる。最後は喉の奥で貼り付いて来る様な押しの強い甘さも控えめに、程よくサッパリとした後味を残してサラリと流れて行く。一方黄金色の液体で揺蕩う米粒達は、その時ツブテの如く一斉に流れ込みしばらく口の中を回遊すると、クニクニやプチプチといった歯応えで次々と押し潰されていく。

 そうこうしている内に時刻は正午へ向かい、人気の増した中野サンモールは次第に活気に満ちて来きて、ソレに呼応した様に店頭では持ち帰り用“竹の子御飯”が飛ぶように売れて行く。その漏れ伝わる春の香りに包まれながら、プカプカ浮かぶ米粒と追いかけっこをしながらチビチビ「甘酒」を啜る。


[住所]東京都中野区中野5-58-6
[時間]9:30~20:00
[定休]不定休
[価格]400円

福田屋 【梅屋敷@京急本線】

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 おそらく梅屋敷駅からの方が近いハズと、改札口を出て右手に進み第一京浜を越える。往く先で待ち受けるY字路の向かって左を進めば、あとは道なりに歩き産業道路をも越えて、ようやく辿り着く約11分の道のりの先にあるのが「福田屋」である。

 江戸の昔より海苔で栄えた大森は今も町中に老舗海苔問屋や小売店が幾つも残り、その古式床しい町並みの中に溶け込んでいる「福田屋」自身も、まるで市川昆監督で横溝正史原作の映画的世界を抜き出した様に町並みに在り、創業80余年という時で塗り固めた昭和的重厚さが随所ににじみ出ている。そのビンテージな空間にあって“今川焼”と記された紅い暖簾が、目に刺さるような鮮やかを放ってぶら下がっている。その紅い暖簾をくぐり店内に入ると、昭和の遺物が数多残る大衆食堂の様な設えの結構広々とした薄暗い空間の先には、液晶大画面テレビの広告の様に四角く切り抜かれ嵌め込まれた様に、目も眩むほどのまばゆい輝きの中に浮かび上がる、結婚式場にあるような見事な造りの中庭が広がっている。一方そんな異空間を眺める観測ポイントである店内は、

今川焼を焼くオヤジ。
給仕を仕切るオヤジ。
厨房にこもるオヤジ。
そしてお客もオヤジ。

という甘味処としては異例なオヤジ率100%の空間が展開しており、そんな異例な「福田屋」は供される「甘酒」は更にも増しての異例っぷりを発揮する。

 しばらくしてツイッと目の前に置かれた甘酒は、甘味処にしては至極モダンな持ち手が付いた白いカップにタップリと注がれ、そこにカップに対してかなり大きめのスプーンが突っ込まれている。肝心の「甘酒」はといえば透明度が限りなくゼロに近く、一般の「甘酒」に当然見られる米粒や酒粕や麹粒などの固形物が対流しているとか一切ない。早速啜ってみるとほんの少しの粘り気が感じられるサラリとした飲み口で、舌触りも極上に滑らかで米粒の類が何時までも姿を見せない。ほんのりとした甘さに対して酒粕系の香りが強めに香り、そこにときどき酸味が感じられるというどこかエスニカルな味わいを鑑みて、コレを総合的にまとめるならば酒粕を混ぜたヨーグルトドリンクといった感じで、そう例えると確かに意外な組み合わせになるがコレはなかなか相性が良さ気である。そういった意味では「福田屋」は古びた佇まいの割にアバンギャルドな志向なのかなと、底に溜まっていた酸味の効いた米粒を掬って口に運びながら思ったりする。


[住所]東京都大田区大森東4-35-7
[時間]9:30~20:00
[定休]木曜日
    (祝日の場合は翌日が休み)
[価格]120円